おばあちゃんがヤモリを殺した。
祖母は虫だと思って足で踏んだのだ。しかし踏んでしまってから、祖母は踏んで良かったものか悩んでいた。これくらいの虫よ、と指で示したのが割と大きくて、母と顔を見合わせた。言われた場所に見にいくと、小さなヤモリが床の上じっとしていた。ふれるとまだ動いている。おなかが出ていた。薄い皮膚に水滴のように黒いおおきな目。けれど少しも苦しそうに見えなかった。
『ヤモリは家(や)守(もり)だから殺さないのだ。』と私に教えたのは祖母だ。
祖母は昔の人なので、どこかとても割り切っていて残酷だった。松についた虫をひねり潰す指には迷いが無かったし、犬は可愛がったけれど納屋で生まれた子猫は増えるといかん、と言って段ボール箱につめて川に流した。私の知っている祖母の中での善悪には、とてもはっきりとした境界があった。
『何の虫かわからんくって、チュチュチュとはっとったもんでぱんて足で踏んだもん。死んだと思ったら生きとったもんで、殺そうかしらんどうしようかしらんて迷っとった。生かそうかしらん殺そうかしらんて迷っとった。』
祖母は虫だと思って足で踏んだのだ。しかし踏んでしまってから、祖母は踏んで良かったものか悩んでいた。これくらいの虫よ、と指で示したのが割と大きくて、母と顔を見合わせた。言われた場所に見にいくと、小さなヤモリが床の上じっとしていた。ふれるとまだ動いている。おなかが出ていた。薄い皮膚に水滴のように黒いおおきな目。けれど少しも苦しそうに見えなかった。
『ヤモリは家(や)守(もり)だから殺さないのだ。』と私に教えたのは祖母だ。
祖母は昔の人なので、どこかとても割り切っていて残酷だった。松についた虫をひねり潰す指には迷いが無かったし、犬は可愛がったけれど納屋で生まれた子猫は増えるといかん、と言って段ボール箱につめて川に流した。私の知っている祖母の中での善悪には、とてもはっきりとした境界があった。
『何の虫かわからんくって、チュチュチュとはっとったもんでぱんて足で踏んだもん。死んだと思ったら生きとったもんで、殺そうかしらんどうしようかしらんて迷っとった。生かそうかしらん殺そうかしらんて迷っとった。』